小歌

[#2字下げ]小歌[#「小歌」は中見出し]

 木立生ひ繁る阜《をか》は、岸まで下《お》りて、靜かな水の中へつづく。薄暗《うすぐら》い水の半《なかば》は緑葉《りよくえふ》を、まつ青《さを》なまたの半《なかば》は中空《なかぞら》の雲をゆすぶる。

 ここを通るは白雲《しらくも》の眞珠船《しんじゆぶね》、ついそのさきを滑りゆく水枝《みづえ》の筏《いかだ》……それ、眼の下《した》に堰《せき》の波、渦卷く靄《もや》のその中《なか》に、船も筏《いかだ》もあらばこそ。

 われらが夢の姿かな。船は碎け、筏は崩れ、帆はあれど、めあてなく、波のまにまに、影の夢、青い夢、堰《せき》に裂《さ》け、波に散り、あともない。

 木立《こだち》生《お》ひ繁る阜は岸までつづく。向《むかひ》の岸の野原には今一面の花ざかり、中空《なかぞら》の雲一ぱいに白い光が掠《かす》めゆく……ああ、また別《べつ》の影が來て、うつるかと見て消えるのか。

[#2字下げ]夏の夜[#「夏の夜」は中見出し]

 蟋蟀《こほろぎ》が鳴く夏の夜《よ》の青空《あをぞら》のもと、神、佛蘭西《フランス》の上《うへ》に星の盃《さかづき》をそそぐ。風は脣に夏の夜《よ》の味《あぢはひ》を傳ふ。銀砂子《ぎんすなご》ひかり凉しき空の爲、われは盃をあげむとす。

 夜《よる》の風は盃の冷《ひや》き縁《ふち》に似たり。半眼《はんがん》になりて、口なめずりて飮み干さむかな、石榴《ざくろ》の果《み》の汁を吸ふやうに滿天《まんてん》の星の凉しさを。

 晝間《ひるま》の暑き日の熱のほてり、未《いま》だに消えやらぬ牧《まき》の草間《くさま》に横はり、あゝこの夕《ゆふべ》のみほさむ、空が漂ふ青色《あをいろ》のこの大盃《おほさかづき》を。

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