窓にもたれて

[#地から2字上げ]ギイ・シャルル・クロオ[#「ギイ・シャルル・クロオ」は大見出し]

[#2字下げ]窓にもたれて[#「窓にもたれて」は中見出し]

夜《よ》の紫の肩巾《エシヤルプ》がふはりと地の肩の上に滑《すべ》り落《お》ちる黄昏《たそがれ》の窓にもたれて今夜もまた空の悲劇を見《み》はじめると、雲はけふどこへいつたか、いつもの逢引《あひびき》にかげもみせない。西方《さいはう》一面に和《な》ぎわたり、光いつとなく白《しら》んで薄れて、さながら、あまりに脆《もろ》く美しい花束がちよいとのことにこぼれ散るやうだ。夕影《ゆふかげ》はいま山あひの虚《うろ》の窪《くぼ》まで及んだが、むかうの阜《をか》は入日のはての光を浴びて、あのカナアンの國よりもなほ遠い神の誓の郷《さと》のやうに照りわたる。温柔《をんにう》の氣、水の如く中天《ちゆうてん》に流れ跳《をど》つて、一|分《ぷん》一|分《ぷん》の嬌《なま》めいて滑りゆくには、つい、ぼんやりと、恍惚《うつとり》して了《しま》ふところを、これではならぬと、やつとこさ、胸の思をなだめて眠《ね》かす、心いきの小歌《こうた》もくひとめた。おや、うしろの方《はう》でらんぷがつく。見よ、大空の奧深く、千萬年《せんまんねん》も倦んぜずに、また、こよひ、ちろり、ちろりと見える、聞える、色《いろ》の數々《かずかず》顫《ふる》はせた、星の光の節《ふし》まはし。

— posted by id at 04:52 pm  

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