茜《あかね》さす額《ひたひ》の薔薇《ばら》の花

 茜《あかね》さす額《ひたひ》の薔薇《ばら》の花、蔑《さげす》まれた女《をんな》の憤怒《いきどほり》、茜《あかね》さす額《ひたひ》の薔薇《ばら》の花、おまへの驕慢《けうまん》の祕密《ひみつ》をお話し、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 黄《き》ばんだ象牙《ざうげ》の額《ひたひ》の薔薇《ばら》の花、自分で自分を愛してゐる黄ばんだ象牙《ざうげ》の額《ひたひ》の薔薇《ばら》の花、處女《をとめ》の夜《よる》の祕密《ひみつ》をお話し、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 血汐《ちしほ》の色の唇の薔薇《ばら》の花、肉を食《くら》ふ血汐《ちしほ》の色の唇の薔薇《ばら》の花、おまへに血を所望《しよまう》されたら、はて何《なん》としよう、さあ、お飮み、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 硫黄《ゆわう》の色の薔薇《ばら》の花、煩惱の地獄ともいふべき硫黄《ゆわう》の色の薔薇《ばら》の花、魂《たましひ》となり焔となり、おまへが上に舞つてゐるその薪に火をおつけ、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 桃の實《み》の色の薔薇《ばら》の花、紅粉《こうふん》の粧《よそほひ》でつるつるした果物《くだもの》のやうな、桃の實《み》の色の薔薇《ばら》の花、いかにも狡《ずる》さうな薔薇《ばら》の花、吾等の齒に毒をお塗り、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 肉色の薔薇《ばら》の花、慈悲の女神《めがみ》のやうに肉色の薔薇《ばら》の花、若々《わかわか》してゐて味の無いおまへの肌の悲みに、この口を觸《さは》らせておくれ、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 葡萄のやうな薔薇《ばら》の花、窖《あなぐら》と酒室《さかむろ》の花である葡萄のやうな薔薇《ばら》の花《はな》、狂氣《きちがひ》の亞爾箇保兒《アルコオル》がおまへの息《いき》に跳《は》ねてゐる、愛の狂亂を吹《ふ》つかけておくれ、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 菫色の薔薇《ばら》の花、曲《こじ》けた小娘《こむすめ》の淑《しと》やかさが見える黄色《きいろ》の薔薇《ばら》の花、おまへの眼は他《ひと》よりも大きい、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

 淡紅色《ときいろ》の薔薇《ばら》の花、亂心地《みだれごゝち》の少女《をとめ》にみたてる淡紅色《ときいろ》の薔薇《ばら》の花、綿紗《モスリン》の袍《うはぎ》とも、天《あめ》の使ともみえる拵《こしら》へもののその翼《はね》を廣げてごらん、僞善《ぎぜん》の花よ、無言《むごん》の花よ。

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